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 ボランティア仲間の毛屋嘉明さん(64)の肝臓は息子さんからのプレゼントです。C型肝炎から肝がんを発症し何度も手術や肝動脈塞栓(そくせん)術を繰り返しましたが、2002年、あとはもう移植手術しかないという事態になりました。妻と、長男?次男が提供を申し出てくれました。小柄な女性の肝臓を男性へ移植することは無理だと言われ、ふたりの息子のうち、医師の判断で次男が提供者になったのでした。
 病院の倫理委員会は、次男が本当に自由意思で提供を決めたのかを確認し、また、この移植治療そのものが妥当なものかどうかを何度も審査しました。ゴーサインが出たのは3カ月後。当時、航空自衛隊に勤務していた24歳の次男は、上司から、将来、健康上の問題で自衛隊員としての仕事に支障を来すかもしれないとの忠告を受けたのですが、「自分の父の命すら助けられない人間が、自衛隊員として、はたして任務を全うすることができるだろうか」と考え、またどうしても父を助けたいという思いで、手術費用の足しにと貯金を持って帰省したのです。手術は成功し、ドナーとなった息子さんは、その後も健康で仕事を続けています。毛屋さんは、免疫抑制剤や定期検査が欠かせないものの、めでたく定年退職の日を迎え、今は、旅行やボランティア活動を楽しんでいます。彼の場合は、体力、家族の愛、職場の協力、優秀な医師やセカンドオピニオンの存在など、すべての幸運の鍵がぴったりと合った大変恵まれたケースだと思います。毛屋さん自身の闘病記と息子さんの手記が福岡がんサポートセンターのホームページ(http://www.fcsc.jp/)に載っています。病に侵されボロボロになった父親の肝臓が、クリクリとした命みなぎる息子さんの肝臓に置き換えられた手術時の写真も掲載されています
 今年から「改正臓器移植法」が施行され、それまで遅々として進まなかった脳死移植件数が急に増えています。新しい移植法では、本人のドナーカードがなくても家族の承諾だけで臓器提供が可能です。毛屋さんのような「生体移植」の場合はドナーの意思がはっきり確認できますが、脳死状態になると家族は本人の意思をあれこれ忖度(そんたく)して悩まなくてはなりません。いわゆる「推定同意方式」になった今だからこそ、日ごろから移植を話題にし、自分の気持ちを、家族と話し合っておきたいものです。